鎖から放たれた強面の犬
私の朝は、「ウォーキング」から始まる。お決まりのコースは、川沿いの土手道である。
その朝も、私の前方に犬と、その少し後ろに飼い主らしい人影が、狭い土手道をこちらに向かって
きた。かまわず近づいて行くと、その犬は急にきびすを返し飼い主の左脇にチョンと座った。驚い
たことに、首輪に鎖をつけてもらっているのである。
そして何事もなかったかのように、つながれた犬は私とすれ違う。近くで見ると、けっこう怖い
顔つきの犬なのである。振り返ると、またおすわりをして今度は鎖を外して貰っている。しつけら
れた動作と思われるが、まるでその犬が自発的に行動しているように思えた。
この犬は散歩の時間中、鎖につながれていない自由をより長く得るために、他人に迷惑をかけな
いよう自ら鎖につながるようにしつけられている。人間の社会であってもこうした行動は、品格を
磨き込んだひとにぎりの人々が実践できるだけである。他人への思いやりに己を律することで、己
の自由の拡大が保証されていることを、強面の犬は私にそっと教えてくれている。
最近は、犬のペースで主人をひっぱり綱が張りっぱなしの犬、やたら猛々しく吠える犬、草むら
に鎮座まします落し物と、飼い主である人間の品性が問われることも多い。犬の行儀を良くするこ
とも人間社会の歪みを正せる一つの方法であろう。人も犬も、大自然の一部に過ぎないものとして、
賢明なる共存ができるなら楽しいことである。
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